aoi_tomoyuki's blog

その時書きたかったこと書いてます。

【夏休み特別企画】納涼フェスティバル参加 3つ目

novelcluster.hatenablog.jp

 参加。3つ目。1日でガバっと書いた。3つとも違った感じの話になったと思う。

空を飛ぶ

 M君が高校時代の話。部活の朝練があったため、その日はいつもよりも一時間以上早く家を出ていた。朝の気持ちのよい空気を吸い込みながら、M君は自転車を快調に飛ばしていた。
 片道二車線の国道に出る。早朝から多くの車が行き交っていた。国道を横断するため、M君は信号のある交差点まで進んでいった。
 ちょうど赤信号だった。歩行者用信号のすぐそばで老人が待っている。M君が隣に自転車を止めると、老人が微笑みながら会釈をしてきた。とても優しそうな人だった。
 M君が車の流れを眺めながら信号を待っていると、老人が手に持った懐中時計を確認した。
「そろそろか」
 時計を見ながら老人はつぶやいた。なにがそろそろなのだろう。信号だろうか。M君が疑問に思っていると、自転車の横をなにが通り抜けた。
 体操服を着た小学生の男の子だった。男の子は競争しているような速度で国道の中へ突っこんでいく。
 M君は反応できなかった。動けなかった。声も出なかった。
 男の子が横断歩道の白いラインを一つ、二つ、三つ、と超えていったところに、大型トラックが!
 男の子は空高く跳ね飛ばされた。蹴り上げられたサッカーボールのようだった。どんどん小さくなる。体操選手よりも激しく回転している。
 数十メートル先の道路に落ちた。すぐにその上を車が通る。が、通りすぎた後に、男の子の身体がなかった。消え失せていた。衣服や靴も、血の跡も、なんの痕跡も見えない。
 隣で老人が、ほぉと関心したような声をあげた。
「今日はよく飛んだ」
「今日は?」
 反射的にM君は聞き返した。
「昨日は軽だった。あの辺りまでしか飛ばんかったよ」
 道を教えるように、老人は十メートルほど先にある標識を指さした。
「その前は観光バスだったが、角度が悪かった……」
 老人は残念そうに言った。M君は言葉の意味が飲み込めなかった。状況がまるで理解できていなかった。
 信号が変わった。
 M君は呆然として動けない。老人は信号を渡らずに反対方向へ歩いていった。去り際、
「車に気をつけてな」
 と言って肉親のような優しい笑みを浮かべていた。