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aoi_tomoyuki's blog

その時書きたかったこと書いてます。

お兄ちゃん増殖マシーン

 あるところに、お兄ちゃんが大好きで大好きで仕方ない少女がいた。名前をS子という。S子はお兄ちゃんが大好きなので、世界中のみんながお兄ちゃんになればいいと思っていた。
 S子の人生はお兄ちゃんのために存在していた。すべての時間はお兄ちゃんのために費やされ、二十四時間お兄ちゃんが頭を埋め尽くし、言動も思考もすべてお兄ちゃんへ通じていた。
 S子は毎日のようにお兄ちゃんに求愛した。体も心も髪の毛一本からへそのゴマまでお兄ちゃんの全てを求めた。当然、お兄ちゃんは逃げた。全力で逃亡した。あらん限りの抵抗をした。
 お兄ちゃんの全力の反撃も、必死の形相も、語彙を尽くした罵詈雑言も、S子のフィルターを通せば、「恥ずかしがりで照れ屋なお兄ちゃん」でしかなかった。なにがどうあっても、S子の中でお兄ちゃんの評価が変わることはなかったのだ。
 ある日、S子はお兄ちゃんの子供が産みたいという欲求を我慢できなくなった。精液を採集するため、深夜、お兄ちゃんの寝込みを襲った。しかし、ただならぬ気配を察知したお兄ちゃんは死にものぐるいで逃亡した。S子はどこまでも追いかけた。二人の追いかけっこ一昼夜続いた。
 追いかけっこは地の果てまで続くかに思われた。しかし、そうはならなかった。
 お兄ちゃんはS子の脅威にさらされ続けた人生疲れ果ていた。生き続けるよりも全てから開放されたいと思った。全てを諦めてしまったのだ。
 お兄ちゃんは池の中へ飛び込んで自殺をした。
 S子も追いかけて飛び込もうとした。
 その時、奇跡が起こった。
 池の中からまばゆい光があふれ女神が現れたのだ。
「あなたが落としたのは普通のお兄ちゃんですか? それともこの金のお兄ちゃんですか?」
 S子は即座に普通のお兄ちゃんだと答えた。すると、女神は普通のお兄ちゃんを返してくれた。さらに、正直者だからと、金のお兄ちゃんもオマケにつけてくれた。
 お兄ちゃんが増えた! 大大大大大大好きなお兄ちゃんが増えた! S子は感動に打ち震えた。そして、考えた。
 お兄ちゃんをもう一度池に落とせば、さらにもう一人お兄ちゃんがもらえるのではないか。
 S子はなんの躊躇もなく、お兄ちゃんをもう一度池の中へ突き落とした。女神が再び現れて同じ質問をした。S子は正直に答えて、二体目の金のお兄ちゃんを手に入れた。
 大好きなお兄ちゃんは多い方がいい。だから、S子は何度も何度もお兄ちゃんを池の中へ突き落とした。金のお兄ちゃんはどんどん増えていった。
 オリジナルのお兄ちゃんはいつの間にか死んでいたが、S子は気にしなかった。金色のお兄ちゃんがいるから問題ない。色が違おうともお兄ちゃんはお兄ちゃんなのだ。S子は金のお兄ちゃんを増やし続けた。
 金のお兄ちゃんが千体を超える頃、さすがに疲れてきたので、S子はお兄ちゃんの増殖を自動化する方法を考えた。
 池から返ってきたお兄ちゃんを自動的に池へ放り込む装置と、女神の質問に答えるレコーダーがあればいい。
 S子は一昼夜かけてお兄ちゃん自動増殖システムを完成させた。
 これによって一日八千四百体の金色のお兄ちゃんが生産された。S子は大量の金色お兄ちゃんに囲まれて、あまりにも幸せで、幸せすぎて死んでしまった。
 金色のお兄ちゃんが野に放たれた。
 金色お兄ちゃんは集団となり近隣の町を襲って略奪を繰り返した。当然、地元の警察が鎮圧に当たるが、三万を超える金色お兄ちゃんの集団に対応できるはずもなかった。しかも、時間が経てば経つほど金色お兄ちゃんの数は増え続ける。
 事態を重く見た日本政府は自衛隊への治安出動を決定した。金色お兄ちゃんは人間ではなくバケモノなので見つけ次第射殺する措置が取られることになった。
 金色お兄ちゃんの戦闘力は高くない。しかし、身体が金でできているため、殺すことは容易ではなかった。数発銃弾を打ち込んだだけでは死なず、完全に吹き飛ばしてようやく動かなくなった。自衛隊の戦力をもってしても、金色お兄ちゃんの進攻を食い止めるだけで精一杯だった。
 
 一方、天界ではS子の作ったお兄ちゃん増殖マシーンによって女神の過労が問題になっていた。天界の規則上、増殖マシーンを無視したり拒絶するわけにはいかない。しかし、このまま放置したら女神が倒れてしまう。偉い神様たちが、ああでもないこうでもないと連日話し合いをした。その結果、
 あの池に投げ込まれた物は、問答無用で金色のオマケを付けて返す。
 という結論に達したのだった。
 
 お兄ちゃん増殖マシーンで一日三万五千体の金色お兄ちゃんが生産可能になった。
 もはや自衛隊でも抑えきれなくなっていた。金色お兄ちゃんの勢力圏は日に日に拡大していった。そして五年後、日本は滅んだ。
 金色お兄ちゃんは日本の技術力を手に入れ海外へ進出した。人類の存亡をかけた戦いが始まった。世界のありとあらゆる資源が投入された。しかし、驚異的な生命力と増殖力だけでなく、日本の技術力を身につけた金色お兄ちゃんを止めることは出来なかった。
 血で血を洗う戦いが三十年間続いた。そして、人類は敗北して地球上から姿を消した。
 地球の支配者の座をかけた戦いは金色お兄ちゃんが勝利したのである。
 こうして地球は金色お兄ちゃんで溢れかえり、宇宙一の金の産出惑星になった。
 
 金プラント地球の歴史より