aoi_tomoyuki's blog

その時書きたかったこと書いてます。

百合乙女「お姉さま、こんな所に『ザ・ワールド』ボタンがあります!」

お姉さま「ザ・ワールド?」
百合乙女「ザ・ワールドです」
お姉さま「何なの、それは」
百合乙女「わたしに聞かれても……。ここに書いてあるの読んだだけです」
お姉さま「ええと、『【ザ・ワールド】ボタン。このボタンをポチっと押せば、たちまち世界は動きを止めます。あなたは時間の止まった世界を自由に動き回ることができるのです』つまり、世界の一時停止ボタンってところかしら?」
百合乙女「なにやらスゴそうですね」
お姉さま「そうね。本物なら」
百合乙女「それで、このボタンどうします?」
お姉さま「押してみる?」
百合乙女「どうぞどうぞ」
お姉さま「わ、わたしは遠慮しておくわ。あなたが押してみたら?」
百合乙女「いや、わたしも遠慮します……」
お姉さま「本当に押さないの?」
百合乙女「押しません」
お姉さま「ボタンがあったら、押さなきゃ負けだとか言い出しそうなのに」
百合乙女「むぅっ、変な言いがかりは止めてください。わたしは人並みの好奇心と、危機感を持ち合わせているんです。こんな怪しげなボタンを押すわけないじゃないですか」
お姉さま「やっぱり、怪しいわよね」
百合乙女「怪しさがほとばしってます」
お姉さま「押した瞬間、取り返しの付かないことになる気がするのよ」
百合乙女「わたしの危機センサーがビンビンに反応してます」
お姉さま「そもそも世界が止まるってどういうことかしら?」
百合乙女「みんなの時間が止まって、このボタンを押した人だけが動けるってことですよね」
お姉さま「みんなの範囲は? 日本?」
百合乙女「日本だけ時間が止まったりしたら世界中で大騒ぎですよ」
お姉さま「そうね。ネットや電話だけじゃなくて、飛行機や船も行き来してるから、大変なことになりそう」
百合乙女「それじゃあ、地球規模で時間が止まるってことですか?」
お姉さま「地球って太陽の周りを公転ながら自転してるのよね。地球だけ時間が止まったら……」
百合乙女「大惨事ってレベルじゃないですよ……」
お姉さま「アンゴルモアの大王が失敗した人類滅亡をあっさり果たせそうね」
百合乙女「じゃあ、全宇宙規模で時間が止まるなら、そんな大惨事は起こらないですよ」
お姉さま「壮大な話ね」
百合乙女「まったくです。こんなボロっちいボタンにそんな力が秘められてるんなんて」
お姉さま「押してみないと分からないけどね。仮に、全宇宙規模で時間が止まって、自分だけが動けるとして、本当に自由に動き回れるのかしら?」
百合乙女「まず、自分の定義が気になります」
お姉さま「というと?」
百合乙女「自分の着てる服や靴は自分に含まれるかってことです」
お姉さま「つまり、世界の時間が止まって、自分だけ自由に動けると思ったら、着ていた服や靴は自分に含まれていなかったってことね」
百合乙女「そうです。服や靴の時間も止まって空間に固定されてるから、身動きがとれなくなったってオチです。ギャグマンガでありそうです」
お姉さま「そういうの読まないから分からないわ」
百合乙女「それにしても、時間を止めたら、どうやって時間をもとに戻すんですかねえ」
お姉さま「もう一回ボタンを押すんじゃないかしら」
百合乙女「押せるんですか?」
お姉さま「つまり、ボタンの時間まで止まってしまうってことね」
百合乙女「一度時間を止めると、二度とボタンが押せなくなっちゃうんです」
お姉さま「世界を止めて自由に動き回れるようになったものの、元に戻す方法がなくて、一人ぼっちで死ぬまで生きていかなければならないわけね」
百合乙女「ホラーですねえ」
お姉さま「時間が止まるってことは、物質が動かなくなるってことよね」
百合乙女「物質っていうなら、分子とか原子も物質ですよね」
お姉さま「全宇宙の物質が全て動かなくなって、自分だけが動けるって状況がある。地球の大気は窒素とか酸素とか二酸化炭素で構成されてる。全ての物質が止まるということは、空気を構成する物質だって例外じゃないわ」
百合乙女「呼吸が出来なくて死んじゃうってことですか」
お姉さま「空気が止まってるから、身体も動かせないって可能性もあるわね。あ、でも、それだとこの説明文と矛盾しちゃうか。まあ、本当のことが書いてあるかどうかなんて、押してみるまで分からないけど」
百合乙女「あ、そうだ」
お姉さま「どうしたの?」
百合乙女「さっき、地球は太陽の周りを公転しながら自転してるって言ったじゃないですか。それってすごいスピードですよね。世界が止まるのに自分の時間が止まらないってことは……」
お姉さま「慣性の法則?」
百合乙女「そう。それです。それでずばーーーんって、ボタン押した瞬間に宇宙まで飛ばされちゃうんじゃないですかねえ」
お姉さま「お手軽宇宙旅行ね」
百合乙女「一方通行ですけど」
お姉さま「色々考えてみたけど、このボタン押したら……」
百合乙女「生き残れる気がしませんね……」
お姉さま「そうね。見なかったことにした方がよさそうね……」
百合乙女「そ、そうですね」
お姉さまの友人「こんなところで何してんの?」
お姉さま「え、ああ、ちょっと立ち話をしてたの」
お姉さまの友人「ふーん、そう。で、このボタンなに?」
お姉さま「それは」
百合乙女「押しちゃダメです!」
お姉さまの友人「え、なんで?」

ポチッ

お姉さま「あ……」
百合乙女「ダメだって言ったのに」
お姉さま「……」
百合乙女「え」
お姉さま「え」
百合乙女「なんで……」
お姉さま「そんな……消えた……」
百合乙女「今、さっき、ここに、お姉さまの友達がいましたよね?」
お姉さま「ええ……間違いなく」
百合乙女「その人がボタン押して、その瞬間に消えましたよね?」
お姉さま「そ、そうね」
百合乙女「お姉さま、ケータイは?」
お姉さま「そうね。電話、かけてみましょう……」
百合乙女「繋がりますか?」
お姉さま「まって…………」
百合乙女「どうなりました?」
お姉さま「電源が切れてるか、電波の届かない場所にいるか」
百合乙女「うっ、宇宙旅行に出かけちゃったのかな……」
お姉さま「そ、そんなこと、あるわけないじゃない」
百合乙女「ですよねえ。あるわけないですよ」
お姉さま「あるわけないわよ」
百合乙女「ないですね」
お姉さま「そう。全てなかったのよ」
百合乙女「え?」
お姉さま「ボタンなんて見てないし、友達とも会ってない」
百合乙女「え」
お姉さま「なかった」
百合乙女「で、ですよね。きっとそうです。そうに違いないんです。わたしも見てないし、会ってもいないです」
お姉さま「帰りましょう」
百合乙女「そうですね」
お姉さま「なにか食べていきましょう。おごるわ」
百合乙女「いいんですか? お姉さま太っ腹ですね!」
お姉さま「太っ腹はやめてよ」
百合乙女「あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは」
お姉さま「うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」